龍宮へ行き大金持ちになった若者:今昔物語

昔、観音様を深く信仰する若者がいました。貧乏だったけれども、非常に信仰心が厚く、観音様の縁日には一日に百の寺に詣るくらいの熱心さでした。


◆助けた龍に感謝されて若者は龍宮へ◆

ある年の秋、観音様の縁日にいつものように寺参りに出かけると、南山科(京都)あたりで小さな蛇を捕まえて歩いている男に出会いました。

話を聞くと、この男は如意という仏具を造る者で、捕まえた蛇から脂を採って使うのだという。若者は、この蛇を可哀想に思い、その蛇を自分が持っていた綿入れと交換して、池に逃がしてやりました。

寺に向かって再び歩き出してしばらくすると、若くて綺麗な少女と出会いました。この少女、実はさきほど助けてあげた蛇で、父母が若者にお礼を言いたいと迎えによこしたのでした。

若者は最初は戸惑ったものの、少女に言われるままに目を閉じ、しばらくして再び目を開けると、そこには極楽のような光景が広がっていました。

そこは龍王の都といわれる場所で、龍王は娘の命を救った若者に深く感謝し、この世のものとは思えない美味な料理の数々をご馳走した後に「金の餅」が入った箱を持ってこさせました。

そしてこの金の餅を割り、その半分を若者に与えて言いました。「お礼にこれを授けよう。必要な度にこの餅を割って使えば、あなたの生きている限りは亡くならないから」

若者がそろそろ家に帰らないといけないと伝えると、助けた少女が再び現れて、来たときと同じように案内してくれました。目を閉じて、しばらくして再び開けると、蛇を逃がしてあげた池のほとりに立っていました。

少女は重ねてお礼を言うと姿を消しました。若者も家に帰ったのですが、龍王の都にいたのはほんのひと時と思いきや、何日も経っていたので大変驚きました。

その後、若者は龍王にもらった金の餅のことは内緒にし、必要なときだけ割って使いました。不思議なことにいくら割っても元通りになったので、この若者は程なくして大金持ちになりました。

若者は観音様を深く信仰していたので、龍王の都を見ることができ、不思議な金の餅までもらうことができたと言われています。この話は、今昔物語、巻一六・第一五に登場します。