天狗に捕まった龍王の話:今昔物語

昔、現在の香川県にあたる讃岐の国の満濃池(写真参照)に一匹の龍が住んでいました。その日は、天気もよく「ちょっくら日光浴でもしようか」と、目立たぬように小さな蛇に姿を変えて、池の傍らでとぐろを巻いていました。


◆物語の舞台となった満濃池(まんのういけ)です◆

そこにやってきたのが、比良山に住んでいる鷲の格好に化けた天狗です。天狗は小蛇(龍)を見つけるや否や、飛びかかって食べてしまおうとしました。

なんとか捕まえることはできたものの、相手は姿を変えたとはいえ龍です。さすがの天狗も根負けして、住処である比良山に悪戦苦闘しながら持って帰り、狭い洞穴の中へ放り込みました。

龍が飛ぶためには、水が必要ですが、洞窟の中には水は一滴もなく、逃げ出すことができません。このままでは、龍は衰弱して死んでしまいます。

一方、この悪さをした天狗は、今度は比叡山の僧侶を捕まえようと考え、比叡山にやってきました。すると、そこに小便をして手を洗おうと出てきたひとりの僧侶がやってきました。

「しめた」とばかりに天狗は舞い降り、まだ手洗い用の水入れを手に持ったままの僧侶を連れさらってしまいました。そして龍を閉じ込めたあの洞窟に放り込んだのです。

僧侶は「このままでは天狗に殺されてしまう」と生きた心地がしませんでしたが、その時、洞窟の奥から龍が声をかけます。「お前と同じく、私も天狗に捕らえられてこんなところに閉じ込められてしまった。水さえあれば龍としての力を発揮することができるのだが…」。

これを聞いた僧が、「便所の手洗い用の水ならここにあります。これをもったままあの天狗にさらわれたのです」と答えると、龍は大喜び。早速、水をかけてもらうと龍は人間の子供に姿を変え、僧を背中に負ぶいました。

そして、洞穴の壁を力一杯蹴り破って外へ飛び出しました。そのとたん、稲妻はひかり、雷鳴は轟き、激しい雨が降り出しました。僧はビックリしましたが、必死に子供(龍)の背中にしがみついていました。龍は僧侶を比叡山まで連れて行き降ろして、去っていきました。

後日、龍は天狗に復讐してやろうと必死に探しました。そして、今日の都で勧進僧の格好をしてうろついている天狗の姿を見つけるなり、蹴り殺しました。

一方、龍に助けられた僧侶は、恩返しとして常に誦経し、善を修したといいます。この話は、平安時代に書かれた「今昔物語」巻二十の第一に登場します。